人称性サーキット
PERSONAL CIRCUIT
1995 Furuya Toshihiko


 部屋の中央にある台の上面は硝子板になっており、中から光が透過している。硝子板には、半透明の膜が広がっており、膜には電算機で合成された迷路が転写されている。迷路は台の中から透過する光によって明瞭に見ることができる。これは三千二百四十九枡を一つの枠とし、七十六個の枠が繋がって、全体が循環構造になった競技場である。迷路には辿るべき経路が無制限にあるが出口はない。ただ、硝子板の上に置かれた透明な半球を覗き込むことによって、突然迷路の中に居ることに気付くことができる。迷路の参加者が一人であろうが複数であろうが、参加者は測らずも競技場の競争者となる。
 この迷路は、絶対に外へ出てしまう心配もないし、行かなければならない方向もない。従って競技場の競争状態には終わりがない。つまり、勝負事の勝敗は常に保留されている。ただ、闇雲に参加者はひたすら何かを探しているかのようにまた先を急いでいるかのように曲がり角を辿っていく。参加者の人称性は、辿っていった経路によってのみ規定され、その経路の現在の点の周辺にかろうじて形成される。瞬きや眩暈や幻覚によって壁を飛び越すようなことがあれば、僅かな手掛かりしか持たなかった人称性はまるごと入れ替えられることになる。我々は、来るべきギャンブルの時代に備えてこの競技場の中に全意識を集中させ全てを投入してみる必要があるだろう。何も起こらなかったときに我々はとりあえず勝負事に勝つのだ。