音響文字集蔵体の合成
SYNTHESIS OF THE ARCHIVES ON SOUND LETTERS
2000 Furuya Toshihiko


 完全に機械的で純粋な記号連鎖の合成によって始まった実験は、二年程前から生産の動機と価値の原理に関する実験へと移行していましたが、今回は言語活動等の交換過程そのものが持つ実際の役割について検証してみたいと考えております。言語活動からの残余ではないが常に現在の言語活動によって制限されている、痕跡の沈殿のみを目的として自足した回路は、言語活動の裏側でなにが起こっているのかを明らかにします。現在使用されている言語しか認識しない伝達が、その認識によってなにを実際に産み出しているのかということが、作品を見ていただけるとわかります。そして、伝達における主要な機能とは、伝えることではなく、伝達の遅れであるだろうというのが、今回の仮説です。伝達の遅れの大規模な集積がなにをもたらすのかは、今後のこの実験の課題になります。
 作品は、発声と認識と蓄積の過程が順次受け渡されるような回路を構成しています。音声を経由していますので、外部から介入することは簡単に出来ますが、人為的な介入は回路の内部に吸収されて分析と撹拌へとまわされるだけでなにも返ってくるものはありません。外部からの介入は意図的なものと受け取られることは決してないのです。つまり、これは循環的な回路ではありません。非意図的な文字連鎖の合成を出発点として、言語活動の裏側を通した文字連鎖の集蔵体を到達点とした一方向の回路です。そして、ここで提示されているのは、出発点と到達点との間の伝達の遅れです。